ハンバーガー店の「ご一緒にポテトはいかがですか?」という決まり文句は、クロスセルの代表例として知られています。
クロスセルとは、顧客に「合わせ買い」をおすすめする販売手法のことです。BtoCはもちろん、BtoBでも重要なセールス手法です。
クロスセルにより売上を増やすことは、LTV(顧客生涯価値)向上の観点からも重視されています。
今回は、クロスセルとは何か、アップセルとの違い、メリットや進め方、施策例を解説していきます。
クロスセルとは?アップセルとの違いも確認
クロスセルとは何か、アップセルとのちがいを明らかにしながら解説します。
クロスセルとは
クロスセルとは、特定の商品やサービスを購入しようとしている顧客、またはすでに購入した既存顧客に対して、関連する別の商品やサービスの追加購入をうながすことです。
「同時に購入すると割引」のような特典をつけてセット販売することもあります。
BtoCでは、商品やサービスを購入しようとするときの「こちらの商品もおすすめ」という表示がクロスセルの典型例です。
BtoCのクロスセルの例
- 携帯電話の契約時に補償を手厚くするオプションを提案する
- ECサイトでゲーム機を購入するときにゲームソフトのレコメンドが表示される
BtoBのクロスセルの例
- MA(マーケティングオートメーション)の顧客企業をカスタマーサクセスが定期訪問して、担当者から課題をヒアリング。解決策となるマーケティングコンサルティングサービスを紹介する
- オフィス複合機を購入した顧客企業に、コピー用紙やトナーを販売し、さらに他のオフィス用品も一緒に購入できることを案内する
BtoBでも商品やサービスの購入時に追加購入をすすめることはありますが、どちらかというと、特定の商品やサービスの取引がすでにある顧客に対して、関連する商品やサービスの追加購入をうながすことが多いです。
たとえば、サブスクリプションサービス契約をした顧客企業の担当となったカスタマーサクセスが、顧客から現在の課題をヒアリングし、その解決策となるオプションサービスを追加でおすすめするような形です。
アップセルとのちがい
クロスセルと似た用語でアップセルがあります。
アップセルとは、現在購入しようとしている商品やサービスに替えて、それより上位の商品やサービスをすすめること、または、現在サブスクリプションサービスなどを利用している顧客に対して、より上位・高額のプランへの変更をすすめることです。
BtoCのアップセルの例
- 家電販売店で顧客が10万円の冷蔵庫を検討しているとき、より機能が充実している15万円の冷蔵庫をすすめる
- ECサイトで時々米を購入する顧客が再購入しようとするとき、定期購入のレコメンドが表示される
BtoBのアップセルの例
- 宅配便を個別に依頼している顧客企業に、宅配便業者が年間契約を案内する
- 経費精算システムの顧客企業に、経費精算を含むトータルな会計システムを提案する
つまり、
アップセルは「替わりの上位商品・サービス」を提案
クロスセルは「追加の関連商品・サービス」を提案
する手法です。
アップセル、クロスセルのほかに、より低価格の商品やサービスをすすめる「ダウンセル」というセールス手法もあります。
ダウンセルは、商品を購入しない、あるいはサブスクリプションサービスを解約するといった事態を避けるときの提案です。
これも用語として覚えておきましょう。
クロスセルのメリットとデメリット
クロスセルのメリットとデメリットを確認します。
クロスセルのメリット
クロスセルのメリットとして、LTV向上とCACの改善、そして顧客ロイヤリティの向上が挙げられます。
LTVの向上とLTV/CAC比率の改善
クロスセルを増やすことで、LTV(顧客生涯価値)を向上させることができます。
LTVとは、一顧客から企業が得られる利益の総額のことです。
LTVが重視される背景には、新規顧客獲得の難しさがあります。
市場が成熟している現代、顧客は競合他社との奪い合いとなっています。新規に顧客を獲得するためには多額の広告費や営業経費をかける必要があります。しかも、コストをかけて獲得した顧客は常に他社に奪い返される可能性があります。このため、一人の新規顧客を獲得するためのコストであるCAC(Customer Acquisition Cost)は高くなる傾向です。
既存顧客へのクロスセルを促進してLTVを向上させることにより、新規顧客獲得にも一定のコストをかけることが可能になります。なぜなら、新規顧客獲得に充てる予算を増やせるからです。
一人の顧客から得られる粗利であるLTVと、一人の顧客を獲得するためのコストであるCACのバランスをLTV/CAC比率といい、3以上が望ましく、3より高ければ収益性がより高くなります。
つまり、クロスセルはLTV向上とLTV/CAC比率の改善に有効です。
参考:LTVとは?BtoBマーケティングにおけるLTVの重要性、施策、成功事例を解説!
CAC(顧客獲得単価)とは?LTVとの関係・改善方法・計算用テンプレートを紹介!
顧客ロイヤリティの向上
顧客ロイヤリティとは、顧客が企業や商品に対して持つ愛着のことです。
BtoCの場合は、購入金額に応じてポイントや特典がアップするロイヤリティプログラムを提供する方法がよく知られています。顧客に自社のファンになってもらう施策です。
BtoBの場合は、継続的に既存顧客をフォローして、クロスセル、アップセルを促進するとともに、LTVを向上させます。そのための専門職が「カスタマーサクセス」です。
カスタマーサクセス部門がない組織では、営業担当者が顧客フォローを担当する場合があります。近年は営業スタイルにおいても、時間をかけて顧客を深く理解して関係性を構築する「深耕営業」が注目されています。
また、クロスセル施策では顧客のニーズに的確に応える商品やサービスを提案することが重要です。
追加購入した結果、顧客満足度が上がれば、今後も利用し続けたいという愛着が生まれます。
以上のように、顧客フォロー施策と適切なクロスセル提案により、結果として、顧客ロイヤリティが向上します。
参考:ロイヤリティマーケティングとは?企業の成功事例をもとに解説
カスタマーサクセスとは?業務内容や成功事例、LTVを最大化する手法をわかりやすく解説
クロスセルのデメリット
クロスセルにはデメリットもあります。
それは、「追加購入の提案にはリスクもある」ということです。
自社の商品を購入してすでに満足している顧客に、ニーズのない商品を追加購入するよう提案しても、売上に結びつかないだけでなく、迷惑がられてしまう可能性があります。
また、提案を受け入れて追加購入した商品やサービスに満足できなければ、そこでも顧客離れを招いてしまうでしょう。
こうしたリスクを回避するためには、対象をニーズがある顧客に絞り込み、適切なタイミングでクロスセルを行うことが大切です。
具体的なタイミングについては、「クロスセルの施策例」にてご紹介します。
クロスセルの具体的な手順
以下では、主にBtoBを例にとり、クロスセル施策の手順を解説します。
- 既存顧客を分析する
- クロスセル商品を選定する
- クロスセルを実施
- 顧客フォローとPDCA
既存顧客を分析する
まず、自社の既存顧客がどのような購買行動をとっているかを知るために、顧客のデータを分析します。
日頃からCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)で顧客データを管理していれば、それをもとに顧客分析を行うことができます。
BtoBのクロスセルに役立つ顧客分析の例として、以下があります。
RFM分析
RFMとはRecency, Frequency, Monetaryの略で、それぞれ以下を意味しています。
R(Recency):直近で購入した時期
F(Frequency):購入の頻度
M(Monetary):購入金額
RFM分析により、クロスセルの対象となり得る優良顧客(R:高 F:高 M:高)や安定顧客(R:中 F:中 M:中)を見つけ出し、顧客グループごとに異なる施策を立案することもできます。
参考:RFM分析とは?顧客の購買行動を理解して、マーケティングを成功させる
セグメンテーション分析
市場ユーザーを「地理的変数」「人口動態変数」「心理的変数」「行動変数」で細分化した「セグメント」に分類して、クロスセルのターゲットとなるセグメントを見つけ出す手法です。
顧客分析の方法は他にもあります。上記のRFM分析、セグメンテーション分析を含めて以下の記事でくわしく解説しています。
参考:顧客分析とは?7つの手法や進め方、成功事例を紹介
顧客データを分析するだけでなく、営業部門やカスタマーサクセスが蓄積している顧客企業それぞれの最新情報も重要です。顧客担当者の悩みや課題感、直近の業績などがクロスセル提案のための有力な手がかりになります。
クロスセル商品を選定する
クロスセルで顧客に提案する商品やサービスを選びます。
商品・サービスの点数があまり多くないBtoB企業の場合、主力商品の顧客に対して関連するオプションサービスや新しいサービスなどの提案が考えられます。
気をつけたいのは「売りたいもの」ではなく、「顧客のニーズがあるもの」を選ぶことです。
たとえば、「サービスAを購入している顧客はオプションサービスA+を追加していることが多く、このグループの顧客満足度が高い」といった顧客分析結果が手掛かりとして重要です。
新サービスなどをクロスセルで積極的に展開したい場合は、「初月無料キャンペーン」「期間限定割引」など、既存顧客向けの特典を用意することも有効です。
クロスセルを実施
絞り込んだ顧客に対してクロスセル施策を実施します。
実施のタイミングは「新商品キャンペーン期間」のように一律にするか、顧客企業の契約更新時期に随時行うかなどの選択肢があります。カスタマーサクセスが定期訪問して適切なタイミングで提案する方法もあるでしょう。
また、誰が提案するかもポイントです。通常は顧客を担当するカスタマーサクセスから案内しますが、単価が高いサービスであれば営業担当者が同行する方法も考えられます。
顧客フォローとPDCA
顧客が追加購入した後のアフターフォローも重要です。
新サービスの費用対効果が実感できず解約されることがないよう、カスタマーサクセスが活用促進を図ります。
クロスセルの結果として、顧客満足度が向上する状態へと導くことが大事です。
また、クロスセル施策全体の効果測定、検証を行い、次の提案へ向けてPDCAを回します。
クロスセルの施策例
クロスセルの施策例を紹介します。
レコメンド
AmazonのようなECサイトで商品を購入するとき、関連商品がレコメンドとして紹介され、「合わせてカードに入れる」ボタンも表示されます。レストランのタブレット注文でもメインディッシュとバランスのよいサイドメニューが提案されます。また、次にサイトを訪問したときには、過去に注文した商品の関連商品が並びます。
レコメンドは、購買意欲が高いユーザーに、無理なく関連商品の追加購入を促す効果的な方法です。
オプションサービス
携帯電話の契約をするとき、通信容量の追加、補償、動画サブスクリプションなどさまざまなオプションサービスが提示されます。また、生命保険の契約では、各種の「特約」の追加が可能です。旅行商品でも各種のオプショナルツアーを追加することがあるでしょう。
BtoBでも複合機を購入するときに保守契約や消耗品の定期購入を申し込むことがあります。
顧客にとって必要性の高い項目をオプションサービスとしてそろえることで、確実にクロスセルが期待できます。
セット販売
関連する複数の商品を最初からセットで販売する方法で、価格割引の特典がつくことが多いです。
電気とガスを同じ会社で契約、携帯電話とWi-Fiを同時契約、新年度に家電量販店で売られる「新生活家電セット」など、よく活用される手法です。
BtoBでは、勤怠管理システムと給与計算システムのセット販売、電話や複合機などオフィス機器の一括販売といった例があります。
会員向けサービス
商品やサービスの購入者を会員登録してコミュニティを形成し、そこで「購入後」のクロスセルを展開していく方法です。
BtoCではたとえば、車のオーナーの会員サイトでは、カーアクセサリーや関連サービスをお得な価格で購入できるといったサービスがあります。
BtoBでもサブスクリプションサービスの顧客向け専用サイトで各種キャンペーン情報を届ける方法があります。
まとめ
本稿のポイントは以下です。
1. クロスセルとは、特定の商品やサービスを購入しようとしている顧客、またはすでに購入した既存顧客に対して、関連する別の商品やサービスの追加購入をうながすことです。
2. アップセルとは、現在購入しようとしている商品やサービスに替えて、それより上位の商品やサービスをすすめることです。
3. クロスセルのメリットはLTVの向上とLTV/CAC比率の改善、顧客ロイヤリティの向上です。一方デメリットとして、ニーズがない顧客にクロスセルを提案して顧客離れとなるリスクがあります。
4. クロスセルの具体的な手順は以下の通りです。
1) 既存顧客を分析する
2)クロスセル商品を選定する
3) クロスセルを実施
4) 顧客フォローとPDCA
5. クロスセルの施策例として、以下があります。
・レコメンド
・オプションサービス
・セット販売
・会員向けサービス
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