GPS、Wi-Fi、Bluetoothなどモバイルデバイスの通信環境が充実していくに従い、生活者の位置情報を活用したマーケティング施策に、熱い視線が注がれています。
シャノンでも、デジタルとアナログを跨いだマーケティングの支援を強化していますが、アナログの行動履歴である位置情報は、今後のマーケティング業界における重要なキーワードとなるでしょう。
今回は、Wi-Fiを利用した位置情報マーケティング・ソリューション・サービスを提供するシナラシステムズジャパン株式会社の松塚展國さんと向井直輝さんに、位置情報マーケティングのポテンシャルと未来像を聞きました。
位置情報マーケティングとは何か
ーー行動データのマーケティング利用について世の中の概況を教えてください。
向井:行動データと聞いてまず思い浮かぶのはWebのCookieデータですよね。私たちが扱っているのは、リアル(オフライン)の行動データです。これまで、Web上の行動とオフラインでの行動を一貫して計測する手法はありませんでした。したがって、Webで打った広告がオフラインでのコンバージョンにどのくらい寄与しているかを計測するには、かなり複雑なステップを踏んでいました。
たとえば、Webサイトのクーポンを印刷してもらい店頭のレジで提示させるなど。この方法は複雑なだけでなく、計測トリガーの発生を生活者側に委ねていたという問題もあります。Web広告を見たけどクーポンを持ってこなかったという来店者をコンバージョンにカウントできないのです。正確なデータを取ることは不可能でしょう。
近年はシナラのような位置情報を使ったマーケティング支援サービスが生まれ、モバイルデバイスの位置情報とインプレッションのデータを組み合わせた来店計測ができるようになりました。
位置情報の取得方法については、シナラはWi-Fiの検知データを採用しています。他社にはビーコンやGPSを用いた支援サービスもあります。FacebookやGoogleも従来のデジタル広告に加えて、行動データにまつわるサービスを提供しています。今後業界規模は拡大していくでしょう。
松塚:「位置情報マーケティング」の定義を仮に「広告配信及び来店を計測することを目的としたマーケティング活動」とした場合、現状の市場規模は100〜150億円ぐらいと言われています。今後、計測手法や通信環境は止まることなく発達していくので、僕の見込みでは、5年後に1000億円の市場規模に成長しています(笑)。
向井:「広告配信及び来店を計測することを目的としたマーケティング活動」という狭義の位置情報マーケティングは、100億〜150億円の規模ですが、より広義で捉えると、現状でも相当なニーズがあります。たとえばオフライン広告の「チラシ」は、居住地域を絞って配るため、ある意味、位置情報マーケティングです。従来の手法に代わる手法を、私たちがご提案できればと思います。
ーー位置情報を使ってどんなことができますか?
向井: 広告配信と分析ができます。「今、まさに、ここにいる人」に対して広告を配信できます。公道に立てられた看板に成り替わる、新しい集客方法になります。
向井:Cookieをベースにした広告と違うのは、生活の実態に即したゼグメントができることです。たとえばプロ野球チームのグッズを売りたいとき、Cookieをベースにした配信だと、「球団のオフィシャルサイトを閲覧した人」をターゲットにしますよね。でもサイトの閲覧者は、必ずしも野球ファンではありません。ならば、実際に球場に足を運ぶ習慣がある人に広告を打つほうがCVの可能性が高まりますよね。これが、「今、まさに、ここにいる人」に広告配信ができることの価値です。
また、より潜在的なニーズにアプローチしやすいのも位置情報を使ったマーケティングの特徴です。検索キーワード顕在化しているニーズを洗い出すのが得意ですよね。たとえば、「居酒屋 赤坂」のような検索ワードは、居酒屋に週3日行っている人がいたら、その人はお酒が好きだとわかりますよね。
ーー位置情報で取得できる行動データを使えば、個人情報をも特定しうるのでは?
向井:シナラは個人の特定ができないようなシステムを構築しています。
独自のDMPを携帯キャリア会社のデータベース内に納入し、サンプル数が10以上ある統計データのみをアウトプットします。
松塚:個人情報保護法でいう、「要配慮個人情報」にも配慮しています。例えば、特定の重病患者が通う病院があるとします。そこの通っている人が1万人いたとしても、個人を特定することはできません。ただ、この1万名は全員重病を患っていることがわかります。そのデータは、1万名の人にとって知られたくない情報です。そういう情報は取り扱いません。
SSPからの問い合わせに対しても、広告枠を買うか、買わないかのみの回答を出すシステムにしています。どんな条件にヒットしたのかを外に出してしまっては、個人情報を渡しているのと似てしまうからです。
ーーおふたりが考える、位置情報の価値を教えてください
向井:広告を含む「情報」を、必要としている人に届けられることです。
アドブロック用のアプリがappstoreの人気ランキングで1位になるほど、広告はうっとおしがられています。ですが、適切なターゲットに広告が届けば、それは有益な情報として受け入れられるはずなのです。
生活者のリアルな行動データを使い、より質の高いターゲティングを叶えられるのが、位置情報マーケティングの魅力です。
松塚:デジタルマーケティング業界全体に言えることですが、CPVやCPAという指標を追い続けると、10円単位の上がり下がりに一喜一憂してしまいがちですよね。それよりも、本質的な顧客価値を追い求めたほうがいいと思っています。
シナラでは、CPW(Cost Per Walk-in)やUWV(User Walk-in Value)という指標を提唱していきたいと考えています。このCPWやUWVは単純にコストと見合う結果かどうかを見る指標ではなく、計測した上で、今回の来店価値はいくつだったのか可視化していく指標です。
5年後には、データ量は現在の10倍以上(40ZB以上)になると言われています。データ量が増えるというのは、より細かいデータを取得できていくということ。それは個人情報にどんどん近づいていくという話です。そのようなセンシティブなデータを、どうやって安全・高速に扱っていくのかが、今後のデータマーケティングの論点にもなっていきます。
シナラのソリューションについて
ーーシナラは、測位技術の中でもWi-Fiを活用していますね。その特徴を教えてください。
松塚:Wi-Fiは基本的に店舗に置くので、入退店を計測する場合に優れています。例えば、どこかのレストランにWi-Fiを設置しますよね。Wi-FiってMAXで半径50メートルぐらい届くんです。だから、店外の通行人まで届きます。位置情報として入店者なのか通行人なのかを仕分けるには、電波強度を利用しています。ルーターの設置場所からどれくらい離れた距離にいる人かまで計測できるんですよ。
シナラはその仕分け技術を徹底的に研磨しています。
向井:Wi-Fiの特徴はビーコンやGPSと比較して電波強度を調整できる分、正確性が高いことが挙げられます。一番、正確性が高いのはビーコンなんですが、ビーコンを利用する場合、スマートフォンでアプリを立ち上げてもらう必要があるんです。
松塚:計測する場所の特性にあわせて、Wi-Fi、GPS、ビーコンの3種を組み合わせて利用するのがいいと思っています。
ーーシナラのソリューションを導入した事例を教えてください。
松塚:2017年8月から、日産自動車株式会社様(以下、日産)と共同で実証実験を実施しています。日産がショッピングモールで展開するブランド体験型店舗から周辺の自動車販売店舗への来店を可視化し、来店率や商圏の分析手法を確立しました。
これまで、ブランド体験型店舗が売上にどれくらい貢献しているのかわかりませんでした。シナラで分析をおこなったところ、ブランド体験型店舗の来店者のうち、何%がディーラーに足を運んでいるかが明確になったのです。また、店舗の効果がどの地域まで波及しているかもわかるので、今後の出店戦略に活用していただけそうです。
このように、これまで完全に別だったデジタルとアナログのマーケティング施策を同じ土俵で評価していただけます。
位置情報マーケティングの未来について
ーー位置情報マーケティングの未来は、どうなると思いますか?
向井:分析にかける予算を少額しか出せない店舗経営者の方々にも、「今ここに集まっている人」のインサイトを掴めるように、サポートしていけるようになりたいです。現在シナラのソリューションサービスを利用していただいているのは比較的規模の大きい企業様ばかりですが、僕は昔飲食店を手伝っていたことがありまして、その時に打ち手がないことを実感したので。
松塚:すでにたくさんの広告配信で位置情報が利用されているので、近い未来に、位置情報マーケティングという言葉自体がなくなっているんじゃないかと思います。リアル行動データとWebの行動データを組み合わせたターゲティング、分析は当然になっていくでしょう。
位置情報にまつわる技術も、質・量・安全性の3つをポイントにして、どんどん高まっていくはずです。Wi-Fiではなく、GPSにしても、準天頂衛星が打ち上げられて、三点測位だった状況が五点測位に変わりました。GPSの誤差が数センチになるんですよ。同じようにWi-Fiやビーコンの技術も高まっていきます。
一方で、個人情報の扱いはより慎重に行うべきでしょう。位置情報ベンダーの立場であるシナラは、個人情報の安全性をファーストプライオリティにして、良質な情報を届けることでマーケターの皆様と消費者の皆様に貢献できるよう、取り組んでいきます。
最後に、シャノンのマーケティングオートメーションでは、データの一元管理による効率的なリード獲得とナーチャリングが可能です。
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