人工知能AIというキーワードを耳にしない昨今、Webマーケティングの領域でもAIを活用する動きが活発になってきました。しかしAIがバズワードになってしまい、「とりあえずAI」といった風潮も。AIに対しての正しい理解がマーケターには求められます。
そんな中、「ディープラーニングによってAIにできることが多岐に渡るようになった」そう語るのは、人工知能開発およびAIによるマーケティングコンサル事業等を展開するデータアーティスト株式会社代表の山本覚氏。
今回は山本氏に、ディープラーニングによって何が実現可能になるのか、また今後マーケターはAIとどう向き合うべきなのか、お話を伺いました。
AIによって、ターゲティング予測精度は人力予測の6倍以上になる
―― まずはじめに、ディープラーニングとは一体なにかというのを教えてください。
「ディープラーニング」は生データさえ与えれば、勝手に学習してくれるAI。マーケターの方にとっても、今後はキーワードになってくる技術の1つです。
ディープラーニングによって何ができるかと言うと、たとえば猫の画像を与えたときに、機械学習だと「これが猫の耳」「これが猫のひげ」といった情報を人間が与える必要がありましたが、ディープラーニングは画像から勝手に特徴をつかみ取り、「こういった特徴を持ったのが猫である」というのを導き出せるんです。
―― ディープラーニングの技術を使って、ビジネスではどういったことが可能になるのでしょうか。
マーケティング、広告のコンバージョンに近いポイントで言えば、ターゲティングの予測精度向上に役立てることができます。従来の「この商品を買っている人は、この商品も買ってます」といったレコメンドですと、購入ベースでの予測、また人間が考えうる行動パターンからの予測でした。
しかしディープラーニングを活用することで、購買ベースの情報だけでなく、広告接点、Webページの接点などにおいて取得した情報から幅広い行動履歴からの予測が可能になります。そのため、たとえば「ダイエット商材」を販売している場合、実は「ハネムーン」よりも「温泉」について調べている人に対してターゲティング広告を打つのが効果的である、というのがディープラーニングでは分かったりします。
このように、人間では扱いきれない情報量をディープラーニングでは処理できるため、ターゲティングの予測精度を遥かに向上させることができます。
しかし、事前にどのような情報をAIに学習させるかがポイントになってきます。とある案件では、あらかじめAIにライブラリを大量に学習させることで、「人力でのセグメント」「機械学習」「ディープラーニング」「事前学習ディープラーニング」での予測精度を比較したときに、それぞれ4.7、13.2、20、29.6という結果ができました。事前学習とディープラーニングを組み合わせることによって、人力また機械学習の予測精度よりも倍以上の差が生まれるのです。
―― 実際に企業はいますぐにでもディープラーニングをビジネスに応用できるものなのでしょうか。
現時点では、ディープラーニングは何でも使える魔法の箱ではない、という認識を持つことが重要です。ディープラーニングもインテグレーション市場があるため、提案を受けるマーケターも多いでしょう。しかしディープラーニングはいかに事前学習させるためのデータを保有しているかが重要であるため、自社の情報だけで満足できる予測精度は得られにくいのが現状です。
20年後はまた事情が変わっているでしょうが、向こう5年以内でいえば、「ディープラーニングにつっこめば大丈夫です」といったベンダーは気をつけたほうがいいですね。技術は日進月歩で進歩していますから、しっかりと最新の論文を読んでいるベンダー、またディープラーニングは前処理が最も重要であることを伝えてくれるベンダーとお付き合いすることが大切です。
AIにできるのは「最適化」。人間に求められるのは「企画力」である
―― 昨今のディープラーニングにおいて、注目すべきトピックはありますか?
最近は、 “生成モデル” と呼ばれる領域が非常に注目を集めています。データの特徴を掴み、予測だけでなく、様々なデータを生成することが可能になっているんですね。
すでにCVRの高いバナーやテキストの作成はもうAIによって実現可能です。そのため、 そういった「最適化」の作業は将来的にAIによって奪われていくと思っています。
そして、すでに某企業でも実施しているのですが、数百万の商品に対して各商品の特徴をつかみ、商品の紹介テキストをAIがつくる、といった取り組みがされています。人力で数百万商品のテキストを書くのは莫大なコストがかかってしまいますから、AIによって単純にコスト削減が可能になりますし、フィードバックによってどんどんCVRの高いテキストへと最適化されていきます。
またバナー素材を複数用意してA/Bテストをされている企業も多いと思いますが、 “生成モデル” はそもそものバナー素材自体を作成し、フィードバックからより最適なバナー素材を作成するということが可能です。そのため、将来的には広告バナーを作成するような仕事は、AIに代わってしまう可能性は大いにあります。さらに広告配信の最適化、さらには配信設定自体もディープラーニングによって自動化が実現できます。
―― マーケターは今後、AIとどう向き合っていけばよいと思われますか。
オペレーション業務が中心のデジタルマーケターは、AIによって働き方に影響を受けやすいと思います。しかし、現時点でAIにできるのは「最適化」、そのためテレビCMで犬を起用する、といった予想もできないアイデアを出すというのはまだAIにできません。
そのため、AIが導き出したデータを読み取って「そのアイデア、ありそうでなかった」といった企画ができる人は生き残っていくでしょう。弊社でもAIが分析した膨大なデータを可視化する『匠』というサービスがあるのですが、星空を眺めていたら星座が浮かび上がるように、データから特徴を掴み、企画へと落とし込むというのが、今後マーケターにとっては重要なのではないでしょうか。
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