新規事業の成功には、「PMF(プロダクトマーケットフィット)」が欠かせません。
PMFとは「商品が顧客のニーズを満たし、正しい市場に提供されている状態のこと」です。PMFする前は、必死に営業を頑張っても商品が売れません。
PMFした後には、商品が売れ、顧客からの問い合わせに追われるほどです。
『新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書 良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品・サービスで勝ち続ける』(翔泳社)などの著者でもある、株式会社 才流(サイル) 代表 栗原 康太さんに、PMFについてのお話をうかがいました。
なぜ、PMFが重要なのか?
「PMFするまでは、コードを書くこととユーザーの声を聞くこと以外は何もしないほうがいい」
スタートアップの世界ではそう言われるほど、PMFは重要とされています。
なぜPMFが重要なのでしょうか? 栗原さんにインターンをしていた時代の話を交えてお話いただきました。
――著書にも書かれていますが、あらためてPMFの重要性について教えてください。
栗原さん(以下、栗原):
新規事業が失敗する一番の理由は、「市場が存在しなかったから」です。
スタートアップの撤退要因を調べた調査によると、42%が市場が存在しなかったため撤退したというデータがあります。
これは、「顧客ニーズがなかった」ともいえます。オペレーションや競合にどう勝つか、というところまでいかないケースが大半です。
PMFしていないと、いかに広告運用をうまくやったり、よいウェブサイトを作ったりしても問い合わせや受注につながりません。
私が大学1年生のときに、IT企業で営業の長期インターンをしていたのですが、最初の数年間はびっくりするほど売れませんでした。
1日に150件のテレアポをして、提案して、コンペに参加しても売れません。
他の部署で働いている同学年くらいのインターンは大きな成果を上げていたので、「自分の努力や能力が足りないのでは?」と落ち込んでいました。
ただ、私と同じ部署の人は全員が売れていなかったんです。仕事のできる当時の上司と副社長も、私たちの部署で扱っている商品は売れませんでした。
当時はPMFという概念はありませんでしたが、いま思えばPMFしていない商品を頑張って売ろうとしていたわけです。このケースは、現在でも多くの企業であります。
PMFは「フィットジャーニー」の一部
PMFするためには、「フィットジャーニー」の理解が欠かせません。
フィットジャーニーとは「事業アイデアの立案からPMF、そしてGrowthまでの道のりを示したもの」です。
スタートアップ・フィットジャーニーというフレームワークをもとに作成されています。スタートアップ・フィットジャーニーには、以下の4つのフェーズがあります。
- CPF(カスタマープロブレムフィット)・・・顧客に課題は存在するか
- PSF(プロブレムソリューションフィット)・・・課題を解決する策はなにか
- SPF(ソリューションプロダクトフィット)・・・解決策はプロダクトとして実装できるか
- PMF(プロダクトマーケットフィット)・・・プロダクトは市場に受け入れられたか
さらに以下の2つのステージを加え、6つのフェーズに分けたものがフィットジャーニーです。
- GTM(ゴートゥーマーケット)・・・スケール可能な状態か
- Growth(グロース)・・・スケールしているか
――著書を読んで、フィットジャーニーに納得感がありました。フィットジャーニーについて、少しご説明いただけますか。
栗原:
まずなによりも、顧客に課題が存在するのかを調べることが重要です。
それなのに、ソリューションから考えてしまったり、いきなりプロダクト開発をしてしまったり、広告費を投下してしまったりというケースが多くあります。
事前に調査しないで、プロダクトを出してから顧客に課題が存在しなかったと気づいた場合、時間もお金も無駄にしてしまいます。
CPF(Customer Problem Fit)とPSF(Problem Solution Fit)の段階では、プロダクトを作る必要はありません。
顧客インタビューや商談であててみるだけで大丈夫です。この段階では、いかにお金をかけないでやるかが重要になります。
顧客インタビューで話を聞くだけでもだいぶ違うのですが、多くの企業がやらずにプロダクト開発に進んでしまいます。
新規事業を成功させるために必要な「解像度」を高めるには
新規事業が成功するポイントに「解像度」があります。顧客や市場などの解像度の高い人が解像度の高い領域で新規事業を立ち上げると、成功確率は上がります。
解像度の高いほうが企画やアイデアの質は高まり、意思決定や施策実行の精度とスピードが速いからです。
解像度を高める方法を、栗原さんにうかがいました。
――マーケティング業界で「解像度」という言葉を使う方が増えています。解像度を高めるにはどうしたらいいのでしょうか?
栗原:
解像度を高める方法は、たくさんあります。
アンケートを取ったり、インタビューしたり、問い合わせメールの内容を調べたり、自社の商品や競合の商品を使ってみたり……。
こうした解像度を高めるための行動は、常にやるべきです。
顧客への「解像度」が高ければ、顧客が情報収集に利用しているチャネルに広告やコンテンツを出せますし、顧客が求めている情報をコンテンツとして届けられます。
マーケティングプランを設計するときも、顧客の購買プロセスにあわせてコミュニケーション設計をすればいいのですが、解像度が低いと、これができません。
1年に1回、数年に1回などの一時的な取り組みとしてユーザーインタビューすることはよくあると思います。
ただ、それだけでは全然足りません。顧客ニーズは半年、1年で変わることがよくあるので、定常的にやる必要があります。
ユーザーインタビュー以外にもいろいろな方法があるので、可能な限り解像度を高める取り組みを組織に埋め込むようにしていかなければなりません。
PMFは1度きりのイベントではない
PMFを1度達成しても、競合他社の出現や市場ニーズの変化によって顧客ニーズを満たせなくなる可能性があります。
そのため、企業が継続的に成長するためには、1度だけではなく複数回のPMFを目指す必要があります。
複数回のPMFを目指すために、カギとなるのが「セグメント」です。栗原さんに複数回のPMFをするために必要なことをうかがいました。
――著書に「PMFは1度きりのイベントではない」と書いてあったのが盲点でした。この内容について、あらためてご説明いただけませんか。
栗原:
多くの企業が事業をスケールさせたいと思っているはずです。
ただ、ある特定のセグメントに対してだけで、1000億円くらいの大きな売上を達成するのは現実的ではないですよね。
よく、企業のIR資料でミルフィーユ状に売上を表している図があります。
製品A、製品B、製品C……のようにプロダクト単位の売上がミルフィーユのように積み重なっている図です。
このようなイメージで、1度目のPMF、2度目のPMF、3度目のPMF……と、PMFしているセグメントを複数作っていければ、売上は伸びていきます。
PMFしていたにも関わらず、PMFから外れる可能性もあります。
たとえば、コロナ禍でニーズがなくなってしまった商品は結構ありますよね。
逆にコロナ禍では伸びていたけど、コロナが落ち着いてきたらニーズがなくなってしまった商品もあります。
このように顧客ニーズは変化するので、PMFは1度だけでは安心できません。複数回のPMFが欠かせません。
――1度PMFした後に、2度目以降のPMFをするためには、既存セグメントの獲得やアップセル、新しいセグメントに広げるなどの方法があると思います。優先順位を決めてやっていったほうがいいのでしょうか?
栗原:
優先順位を決めがちですが、理想はすべてやったほうがいいです。そのほうが絶対に成果は出ます。リソースがあるならすべてやってください。
「目標を絶対に達成する」と考えるのであれば、やはりすべてやるのが正解なんだろうなと思います。
優先順位を決めてやってみて、どれか一つでも失敗したら目標達成できないじゃないですか。事前の予測通り数字が出るわけではないので、すべてやったほうが安全です。
才流のPMFストーリー
2016年7月に栗原さんが設立した才流は、創業時と現在では事業内容が異なります。
創業時は企業とフリーランスのマッチングサイト事業をおこなっていましたが、1年半後に同事業を売却。新たにコンサルティング事業を立ち上げ、現在でも主軸となっています。
コンサルティング事業も、すぐにPMFしたわけではありません。
過去に当事者として実感した課題から、BtoBマーケティングのコンサルティングをはじめたことがきっかけで、PMFしています。
これまでの才流のPMFストーリーについて、栗原さんにうかがいました。
――御社のストーリーについてうかがいます。BtoBマーケティングのコンサルティング会社は、これまでにあまり無かったと思います。このカテゴリーに参入しようと決めた理由を教えてください。
栗原:
前職時代から多くの相談を受けていたので、顧客の課題(CPF)はあると思っていました。
また、前職時代に支援をして満足したという声をいただいていたので、解決策(PSF)も分かっていました。
あとは、属人性を排除して組織として提供できるようになる(SPF)かが問題でした。
「BtoBマーケティングのコンサルティングは、栗原さんしかできないんじゃない?」とよく言われていたんです。
属人化してしまって、会社としてのプロダクトにならないという課題ですね。
その課題さえ解決すればPMFできると思い、参入を決めました。属人化の課題は解決できると思っていました。
――なぜ、属人化の課題を解決できると思っていたのでしょうか?
栗原:
私ができているのだから、私より優秀な人たちを採用してマニュアル化やメソッド化など、仕事の平準化をすれば属人化の課題は解決します。
数百名規模のITベンチャーだった前職にも、私より仕事のできる人はたくさんいたので、そういう人たちをどうしたら集められるかを考えました。
優秀な人たちを集めるには、組織のバリュープロポジション(企業が顧客に提案する価値)を定める必要があります。
当時考えたバリュープロポジションはシンプルで、給料がいいこと、労働時間が短いこと、仕事自体が楽しいこと、優秀なメンバーと働けること。
これができれば、高い採用競争力が作れるだろうと。
そして、これら紐づく形でビジネスモデルを考える必要がありました。
そのためには、コンサルタント一人あたりの案件数を減らしても成り立つ単価でサービス提供できる領域なら成立するかな、と仮説を立てました。
やってみたら、ほぼ仮説どおりに進んだ感じです。
――栗原さん、本日はありがとうございました。
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