マーケティングの現場では、「戦略を立てる」ことが重要です。
戦略とは、目標を設定し現状を分析したうえで立てる全体計画のこと。
ゼロから戦略を組み立てることもできますが、多くの場合、「STP分析」「3C分析」などのフレームワークを組み合わせて活用します。
今回は、商品やサービスを売るためのマーケティング戦略の重要性、立案の手順、代表的なフレームワークを解説。後半では、マーケティング戦略の事例もご紹介します。
マーケティング戦略とは
マーケティング戦略とは、企業が商品やサービスを売るためにどうすればいいか、市場やターゲットを分析・理解したうえで立案する計画や方針のことです。
自社の商品やサービスを売る方針はさまざまです。
「低価格で多くの人に提供」するのか、それとも「ターゲットを絞り込み、高価格で品質の高い商品を提供」か。その方針を、マーケティング戦略によって決定し、実行します。
マーケティング戦略の重要性
マーケティング戦略は、以下のような点において、ますます重要になっています。
市場の不確実性
市場の変化のスピードは速まっていて、ひとつの商品の寿命を示す「プロダクトライフサイクル」も短くなっています。的確に顧客のニーズに応えるために、最新の市場の動向と将来予測を綿密に立てることが重要です。
急速なデジタル化への対応
商品・サービスの販売、流通においてはデジタル化が急速に進展しています。最新技術を理解し活用することで、商品やサービスの新たな価値を創造したり、低価格化を図ったりすることが可能です。
顧客行動、顧客志向の多様化
顧客はさまざまなデバイス、チャネルで情報やモノにアクセスします。また、顧客の志向や価値観は多様化しています。顧客について理解を深め、「誰に売るのか」を明確にして、自社の商品・サービスをターゲットに確実に届けることが大事です。
マーケティング戦略の流れと3つの要素
マーケティング戦略は、以下のような3つの要素で構成されます。
環境分析
想定される市場の規模と将来性、競合の状況などを分析します。また、自社のリソース(資金、人材、設備、技術、ブランドなど)も分析します。
PEST分析、SWAT分析、5フォース分析、3C分析
基本戦略
市場と自社の現状をふまえ、自社の商品・サービスのターゲットを決定します。
STP分析、ペルソナ分析
具体的施策
ターゲットが決まったら、商品やサービスの仕様、デザイン、価格、流通チャネル、プロモーション方法などを決めていきます。
4P、4C
フレームワークについては、以下で解説します。
マーケティング戦略のフレームワーク
マーケティング戦略立案で活用するフレームワークの代表例を紹介します。
環境分析のフレームワーク
マーケティング戦略の最初に行う市場の調査・分析では、市場や競合などの「外部環境」と、自社のリソースなどの「内部環境」の2つを対象とします。内部環境は所与、外部環境は自社の要因なので自ら変えることができます。
活用されるフレームワークとして、以下が挙げられます。
3C分析
マッキンゼー日本支社長だった大前研一氏が提唱した手法です。戦略的トライアングルとして「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Corporate)」の3つを挙げ、それぞれのカテゴリにおける戦略を明確にします。3C分析の目的は、KFS(Key Factor for Success)を見つけることです。
参考:3C分析とは?マーケティングにおける顧客・競合・自社の分析方法
SWOT分析
外部環境と内部環境を対比させながら分析するのがSWOT分析です。比較することで、相対的な自社の強みと弱みを明らかにし、戦略に反映させます。
5フォース分析
マイケル・ポーターが提唱した分析手法です。事業にとっての脅威(=force)の現状分析と将来予測をします。5つのフォースとは以下です。
- 競合他社…現在の競合他社との競争の激しさ
- 買い手の交渉力…BtoCなら消費者、BtoBなら顧客企業との力関係
- 売り手の交渉力…原材料を供給する企業との力関係
- 代替品の脅威…他の品やサービスに代替えされる可能性
- 新規参入の脅威…今後競合企業が参入する可能性
PEST分析
外部環境を分野別に知るためのフレームワークです。PESTとは以下です。
- 政治(Politics)…消費税率、規制の強化・緩和など
- 経済(Economy)…景気動向、市場の成長、金利など
- 社会(Society)…少子高齢化、ライフスタイルの変化、流行など
- 技術(Technology)…最新の技術動向など
社会の状況や世界経済の動向が急速に変化する現代、PEST分析の重要性は増しています。近年はこれに環境(Ecology)を追加して「PESTE」分析とすることもあります。
VRIO分析
内部環境を分野別に知るためのフレームワークです。VRIOとは以下です。
- 価値(Value)…企業自身が持つ資金、技術、人材などの価値
- 稀少性(Rarity)…技術の稀少性、競合の少なさ
- 模倣可能性(Imitability)…競合他社が模倣する場合の容易さ
- 組織(Organization)…組織運営の健全性
以上4つの視点から評価して、自社の経営資源にどんな優位性があるかを理解した上で、資金や人材などが不足していれば強化する戦略をとることができます。
基本戦略のフレームワーク
事業の中心的な戦略を策定するときには、STP分析やペルソナ分析を行います。
STP分析
STP分析はフィリップ・コトラーがとなえた代表的なマーケティング手法です。どんな顧客へ向けて商品・サービスを提供するのかを絞り込むときに用います。
STP分析は3段階で構成されます。セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)を順番に行います。
セグメンテーション…顧客を分類する
セグメンテーションでは、年齢・性別・地域・職業・趣味や価値観などで顧客を分類し、それぞれのグループで自社商品がフィットするかどうかを検討します。
ターゲティング…ターゲットを設定する
分類した顧客グループのなかで、アプローチしたいターゲットグループを決定します。
ポジショニング…差別化ポイントを明確化する
競合他社と比較しながら立ち位置を明確にし、ターゲットに対してどんな商品・サービスを提供するか、差別化をはかります。
参考:セグメントとは?マーケティングでの活用事例7選、目的や分類方法を解説
ペルソナ分析
ペルソナとは、商品やサービスを売るターゲットとなる顧客の詳細なプロフィールのことです。
たとえば以下のような内容を設定します。
男性、32歳、会社員(IT企業のマーケティング職)、既婚(1歳年下の妻と2歳の女児)
東京郊外に住み、約1時間の電車通勤
趣味は旅行、スポーツジム、料理
悩みは転職。時期と業種について
このようなペルソナを作成することにより、解像度の高いマーケティング戦略立案ができます。
参考:ペルソナマーケティングとは?設定するメリットや作成方法、具体例を紹介
具体的施策決定のフレームワーク
マーケティングミックスとは、以下の4Pで構成されるフレームワークです。顧客視点に立った4Cを合わせて分析することもあります。
4P
4つの要素とは以下です。
プロダクト(Product)
商品やサービスの仕様、デザイン、機能、名前などを決定します。
価格(Price)
商品やサービスの価格を決めます。
価格は、コスト、顧客価値、競合商品の価格などをもとに決定されます。
流通(Place)
販売チャネルは店舗かオンラインか、他社の流通チェーンやプラットフォームを活用するかしないか、などを決めます。
プロモーション(Promotion)
広告、キャンペーン、Webサイトなどのプロモーション計画を立案します。
4C
4つのCは以下です。
顧客価値(Customer Value)
プロダクトが顧客にどんな価値を提供するのかを明らかにします。
コスト(Cost)または(Customer Cost)
顧客が支払うコストのことです。対価の支払いだけでなく、購入や使い始めるときに要する時間や手間も含まれます。
購入しやすさ(Convenience)
販売方法は、顧客視点では購入しやすさを決定づけます。オンラインとリアル店舗、どちらでも購入が可能であれば利便性は高くなります。
コミュニケーション(Communication)
プロモーションによって企業と顧客のあいだでどんなコミュニケーションを創出するのかを立案します。
参考:マーケティングの4P・4Cとは?MAの前段階にある原則をあらためてチェック
マーケティング戦略の全体像と流れを「R-STP-MM-I-C」で理解しよう
マーケティングの戦略の立て方には「R-STP-MM-I-C」という基本の型があります。これにより、マーケティング戦略の流れと全体像を理解できます。
「R-STP-MM-I-C」とは、コトラーがマーケティングの全体像として示している枠組みです。
「Research」「STP(Segmentation、Targeting、Positioning)」「Marketing Mix」「Implementation」「Control」によって構成されます。
調査 Research
市場調査、競合他社の分析、環境分析などを行います。
分析手法として、3C分析、SWOT分析、5フォース分析、PEST分析、VRIO分析などがあります。
STP分析 STP Segmentation、Targeting、Positioning(事業の基本戦略を決定)
次の段階ではSTP分析を行います。
セグメンテーション:市場や顧客を分類して「セグメント」を明らかにします。
ターゲティング:どのセグメントに対して商品を提供するかを決めます。
ポジショニング:競合他社との比較した差別化ポイントを明確化します。
マーケティングミックス MM Marketing Mix(4P、4C)
マーケティングミックスとは、詳細な販売戦略のことです。4P、4C分析、決定します。
4PとはProduct、Price、Place、Promotionの4つで、STP分析の結果をもとに決定します。
4CとはCustomer Value, Cost, Convenience, Communicationの4つです。売り手の視点である4Pを、4Cという顧客視点で定義しなおしています。
実行 Implementation
商品化を実行します。
分析 Control
販売した結果を計測・分析し、その後の販売活動へ反映させます。
マーケティング戦略を成功させるポイント
多くの競合があるなかで自社の商品やサービスの売上を伸ばしていくことは簡単ではありません。
仮に正しい分析で戦略を立てて実行していた場合でも、競合他社がそれを上回る新商品をリリースしてくれば、成果は得られないでしょう。
厳しい環境下でマーケティング戦略を成功させるポイントについて紹介します。
調査方法とフレームワークを適切に選び、組み合わせて使う
マーケティング戦略のフレームワークとしていくつか紹介しましたが、これらはケースに応じて適切なものをいくつか選び、組み合わせて使います。
たとえば、全く新しい商品をリリースするのであれば、競合商品はない代わりに市場に受け入れられるかどうか未知数です。このような場合は、顧客ニーズを深く分析する必要があり、潜在ニーズであるインサイトを調査・分析する「アンケート調査」「インタビュー」「ソーシャルリスニング」などを行います。
参考:インサイトとは?顧客となる消費者を知りマーケティングに活かす
マーケティングにおけるアンケートの効果的な作成と活用の方法は?
一方で、すでに確立されているマーケットで類似の商品を販売するときは、需要はあるものの、競合他社との厳しい競争があります。この場合、PEST分析、SWOT分析などが欠かせません。また、既存商品と差別化する4Pをどう設定するかも重要です。
以上のように、商品やサービスに応じて、あるいは市場環境を考慮して適切な手法を選び、活用することが大事です。
マーケティングの調査・分析手法については以下の記事でも解説しています。
参考:「STP」「AIDMA」など、知っておきたいマーケティング分析手法や考え方を一挙に紹介
目標に到達しないときは早期に修正する
戦略をもとに実行した結果、うまくいかないときもあります。
急成長している企業では、リスクをとって多くの新規事業を展開しているので、失敗の経験も少なくありません。重要なのは早期に修正することです。
具体的には、KPI、KGIの値を常にモニタリングして、目標に到達しない見込みであればスピーディーに原因を分析・修正することが大事です。
修正しても目標達成が見込めないときは、時期を区切って早期に撤退することもあるでしょう。失敗の経験から学び、その後の成功へと導いていくことで経験を活かせます。
※参考
KPIとは?基礎知識とKGI、KSF、OKRとのちがい、KPI設定と運用のコツを解説【Excelシート付き】
スピーディーな戦略の立案・実行・改善にMAを活用する
マーケティング戦略を成功させるために、業務を効率よく進めること、精度の高いデータ管理、データに基づく確な分析などが求められます。
このような業務の効率化に、MA(マーケティングオートメーション)が有効です。
MAは見込み客や顧客の行動履歴を一元的に蓄積します。1人1人にフォーカスを当てて戦略を考案したい場合は、個人の属性、過去のタッチポイントや、自社からの活動履歴を見て判断することができます。全体から戦略を考案したい場合は、スコアリングを活用してリードのフェーズ設定をすれば各フェーズにどのくらいのリードが存在するのかが見えるようになるため、獲得またはナーチャリングどちらに注力すべきか判断ができるようになります。このような顧客データの分析が、新たなマーケティング戦略立案に役立ちます。
シャノンのMAについてはこちら
マーケティング戦略の事例
マーケティング戦略が市場のニーズをとらえ、成功した事例をいくつか紹介します。
マーケティング戦略が成功した企業の事例
マーケティング戦略が成功した最近の事例として以下をご紹介します。
BtoCにおけるマーケティング戦略
ラウンドワンの全米展開
ラウンドワンは2010年にアメリカ1号店を出店し、2024年現在は全米に50店舗以上を展開しています。通販の浸透によりリアル販売店舗が衰退し、空きができたショッピングセンターに各種ゲーム、スポーツ、レストランなどの複合施設を出店し、アメリカになかった「家族で1日遊べる場所」を提供。アメリカだけで100店舗を目指しています。
- 「コト消費」で集客に成功
- ショッピングセンターの既存店不振が進出のチャンス
- 人口が増加しているアメリカで事業を拡大
- ゲームなど日本のコンテンツが好評
- 将来は他国への展開も可能
海外進出の場合、「どこへ、いつ進出するか」を決めるのが戦略です。成功する要素があったとはいえ、実際には各店舗で異なるローカライズ(地域化)やコンテンツの入れ替えなどの店づくりも必要で、人材の育成や採用にも注力したものと推測ができます。
コミック誌を除く雑誌販売部数No1のシニア女性向け雑誌「ハルメク」
デジタルメディアに席巻されて逆境にある雑誌業界で、順調に部数を伸ばしている女性誌が「ハルメク」です。ターゲットは50代以上のシニア女性、書店等での販売はなく、定期購読のみ。定期購読者数は2017年の15万人程度から伸び続け、2023年初めに50万人を超えました。
編集部は読者のからのハガキやコールセンターに寄せられる意見などをもとに、ターゲット層である50代以上の女性のペルソナを徹底研究し、インサイトを発掘して記事に反映させてきました。同誌のサポーター会員「ハルトモ」は誌面作りへの協力だけでなく、商品開発やモニタリングにも協力。蓄積してきたアセットを活かして、現在では、BtoB向けのシニアマーケティング支援事業、物販事業などの横展開も成功させています。
餃子の雪松
コロナ禍の2020年、「冷凍餃子の24時間無人店舗」が全国で拡大しました。その草分け的存在が「雪松」です。群馬県水上の中華料理店が2019年に無人販売所を出店。その後コロナ禍でテイクアウト需要が増え、店舗は全国約280店まで拡大しました。成功のポイントとして以下が挙げられます。
- 36個入り1000円というリーズナブルで買いやすい価格設定
- 顧客にとって便利で利用しやすい、24時間無人販売
- 冷凍庫と料金箱のみのシンプルな店舗でコスト削減
- 銀行ATM跡地など狭い店舗を活用
- 顧客がリピートする満足度の高い品質
「顧客が簡単に買えるようにする」という戦略が、今までにない販売スタイルを実現させ、ヒットした事例です。このほか、急速に拡大しても安定した品質で商品を供給できる生産体制の確保も成功要因だったことが推測できます。
BtoBにおけるマーケティング戦略
自社に合った施策は何か?どんなマーケ施策に投資をするべきか?は戦略を考えるうえでの大きな悩みです。
BtoBマーケティングにおいて重要なことは、マーケティングの全体像から、リードのフェーズを管理して、各フェーズや目的に応じた施策をおこなっていくことです。最後に、シャノンがおすすめするフレームワーク「購買ピラミッド」をご紹介します。
購買ピラミッドでは、「認知」「興味」「関心」「比較・検討」「商談」と、顧客の行動に応じて購買フェーズを定義・管理します。企業ごとに顧客の購買フェーズの分類は変わってきますが、シャノンでは5つのフェーズに分けています。
購買ピラミッドを定義し、各フェーズに分類されるリード数を管理しフェーズごとの分布と推移を知ることで、自社に足りていない部分が見える化できます。
フェーズごとの分布と推移を知るというのは、具体的には以下のようなことです。
● メルマガ配信を許可している認知フェーズの層は、39,000人いるが、ここ数ヶ月増加傾向にある
● 興味フェーズの層は、8,500人で横ばい傾向である
● 関心層は800人いて、比較・検討層に引き上がる層もいる。
● 比較・検討層は300人で、商談への引き上げも増加している。
フェーズの分布上、中段以上の層の分布が少なければ、下の層からの「引き上げ」をおこなう、もしくは外部からその層に適合する「リード獲得」をおこなうといったように、購買ピラミッドで各フェーズの分布や推移を整理できれば、そこから採るべき方法も見えてきます。
たとえば、自社の関心層が少ない場合は「ホワイトペーパー」「関心ウェビナー」施策を強化する、といった判断ができるようになります。各フェーズにおける施策をシャノンでは以下のとおり定義しています。
より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
参考:自社のマーケティングの全体像をつかむフレームワーク「購買ピラミッド」とは
まとめ
本稿のポイントは以下の4点です。
1. マーケティング戦略とは、企業が商品やサービスを売るための計画や方針のことです。現状の分析、ターゲット設定をしたのち、商品やサービスの仕様や価格、販売方法を決定して実行します。
2. マーケティング戦略の基本は「R-STP-MM-I-C」で、戦略は内部環境や外部環境の分析をもとに決定します。
3. マーケティング戦略立案で使用するフレームワークの例として、以下があります。
《調査・分析のフレームワーク》
・3C分析
・SWOT分析
・5フォース分析
・PEST分析
・VRIO分析
《事業の基本戦略のフレームワーク》
・STP分析
・ペルソナ分析
《マーケティングミックスのフレームワーク》
・4P
・4C
4. マーケティング戦略を成功させるポイントとして、以下が挙げられます。
・調査方法とフレームワークを適切に選び、組み合わせて使う
・目標に到達しないときは早期に修正する
・スピーディーな戦略立案・実行・改善にMAを活用する
最後に、シャノンのマーケティングオートメーションでは、データの一元管理による効率的なリード獲得とナーチャリングが可能です。
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