世界では製造業DXが加速化しています。日本の製造業でもDXが欠かせません。
日本の製造業はかつて基幹産業といわれていましたが、近年においても、GDPの30%を占めるサービス業に次いで、製造業は2番目、20%以上(2021年)のシェアがあり、主要な産業であることに変わりはありません。製造業DXの推進は、日本経済にとっても重要です。
今回は、製造業DXの現状、DXを推進して実現できること、進め方や成果を上げるためのポイントを基本から解説します。後半では、シャノンのお客様が製造業DXを成功させた事例をご紹介しています。
製造業DXの現状と課題、今どうなっている?
日本の製造業DXの現状、DXで実現できること、今後に向けての課題は何かについて解説します。
DXとは?そして製造業DXとは?
DXとは?についてはいくつかの定義づけがされていますが、簡単にいうと、最新のデジタル技術を活用して企業を変革し、生産性を上げることです。
具体的なデジタル技術の例としてはAI、ビッグデータ、IoT、デジタルツインなどがあります。DXの対象は業務全般だけでなく、企業の組織・文化までを根本から変革すべきとされています。
経産省などによる一般的なDXの定義、DXの基礎知識については、以下の記事でくわしく解説しています。
参考:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味やメリット、最新事情を解説
今回のテーマである製造業DXについて、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)では以下のように定義しています。
“顧客価値を高めるため、製造分野で利用されている製造装置や製造工程の監視・制御などのデジタル化を軸に、ITとの連携により、製品やサービス、ビジネスモデルの変革を実現すること”
つまり製造業DXとは、最新のデジタルテクノロジーを活用して業務全般を効率化し、品質を高め、競争力をつけることです。
QCD、インダストリー5.0など関連用語を確認
製造業DXに関連するキーワードについて確認しておきましょう。
サプライチェーン(SC)、エンジニアリングチェーン(EC)、バリューチェーン
サプライチェーンとは原材料の調達、製品化、物流、販売など、モノを供給する一連の業務のことです。一方、エンジニアリングチェーンとは、設計、開発、製造、保守など、技術面から見た製品開発の業務です。サプライチェーンとエンジニアリングチェーンといった、製品やサービスが企画から顧客に届くまでの全体的な価値創造のプロセスをまとめてバリューチェーンと呼びます。製造業DXではサプライチェーン、エンジニアリングチェーンを一体的にデジタル化・効率化することが重要です。
QCD
製造業で重要なQuality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)という3つの要素のことです。QCDそれぞれをバランスよく向上させていくことが求められます。
ダイナミックケイパビリティ
環境の変化に対して素早く適応する力のことで、「企業変革力」と同義です。ダイナミックケイパビリティは変化の激しい現代において企業の持続的な成長に不可欠です。たとえば近年は、感染症・国際紛争・為替変動といった変化がありますが、企業は調達先や生産拠点を変更して柔軟に対応し、サプライチェーンを素早く再構築することが求められます。
インダストリー5.0
2011年、ドイツは自国のものづくり企業の強化策を「Industrie4.0」として推進し、成功させました。この次の段階として、欧州委員会が2021年に、「持続可能」「人間中心」「回復力」を柱とする次世代産業革命を「Industry5.0」として提唱しました。AIやビッグデータなど最新テクノロジーを活用して改革を実現するとされています。
日本では製造業DXが急務
製造業DXの現状はどうなっているでしょうか。
現在までの、日本の製造業DXの進みは順調とはいえません。
以下は、World Economic Forumが選定した、「Lighthouse」、世界の先進的な工場の一覧です。
出所:世界経済フォーラム
2023年12月には世界で24工場が新たに選出され、2018年からの累計で全153拠点となっています。今までに日本から選定されたのは日立製作所大みか工場、GEヘルスケア費の工場、P&G高崎工場の3拠点。世界では、中国が60拠点、インド14拠点、北米11拠点などとなっています。
また、IMDが発表する「デジタル競争力ランキング」で2023年の日本は64か国中32位。2019年の23位から少しずつランクを下げています。
1980年代~2000年代初頭まではソニー、Panasonic、NECなどが世界有数のメーカーでしたが、現在、世界時価総額ランキングTOP50に入っているのはトヨタ自動車のみ、ということもよくニュースで取り上げられています。
一方、近年のランキングで上位のテスラ、エヌビディアといったグローバルな企業は高度なデジタル化を実現し、ダイナミックな成長を続けています。
日本の製造業各社が世界で競争していくために、DXにより生産性と国際競争力を向上させていくことが急務となっています。
製造業DXで実現できる9つのこと
製造業DXで何が実現できるのでしょうか。以下が挙げられます。
日本では「失われた30年」の景気低迷もあり、技術力が高かった1990年代頃の製造ラインとオペレーションシステムを更新せず、現場の技術者のスキルでカバーしてきた企業が多いといわれます。こうした現場では技術が属人化して十分に継承されないという問題があります。生産体制をデジタル化することにより、属人化しがちだった技術を可視化し、共有したり高度にデータを活用したりできるようになります。
※参考:データドリブンとは?用語やメリット、マーケティング方法を事例付きで解説!
デジタルツール導入、自社システムの再構築、AI活用などの改革により、ルーティンワークを人が担当することがなくなり、社員は高度な戦略的業務に専念できます。一人あたりの生産性が向上するので、企業は給与水準を上げることができ、良い人材の確保もしやすくなります。
BtoBの製造業ではマーケティングに本格的に取り組んでいない企業も一定割合あります。技術力や製品の魅力がターゲット企業に届いていないことも多いので、営業部門に加えて、デジタルマーケティングを実践することにより集客が増え、売上にも寄与します。
参考:マーケティングDXとは?【前編】定義やメリット、進め方、企業事例を紹介
マーケティングDXとは?【後編】「顧客体験の構築」はウェビナーを軸に展開
品質の高い製品をより低コストで生産できるようになり、価格競争力が向上します。グローバル市場でシェアを拡大するチャンスも増えるでしょう。
DXにより製品の品質が向上するほか、顧客にとっての製品購入のしやすさ、アフターフォロー体制などを最適化でき、顧客満足度が向上します。
情報を一元管理して全体で共有し、部門間でも連携ができていると、環境要因が変化したときに柔軟かつスピーディーな改善が可能です。不確実性の高さが指摘される今後についても対応できる体制が整います。
DXを推進するなかで自社の知財を見なおし、コアコンピタンスの明確化、強化を図ることができます。コアコンピタンスを活用して時代のニーズに合った新規事業を創出できる可能性も高くなるでしょう。
製造業には脱炭素化が求められています。GX(グリーントランスフォーメーション)とは、脱炭素化のための取組を指しています。カーボンニュートラルを目指すGX推進のためにも業務効率化や省エネにつながるDXは欠かせません。
世界では、競争力があるコアコンピタンスを外部化してグローバルな水平分業・協業へ展開することにより収益性を高める動きが加速しています。DX推進によってこのようなダイナミックな企業活動が可能になり、企業がさらに成長する機会が広がります。
参考:経済産業省「製造業のDXについて」
製造業DX推進の課題
日本では、製造業DXが重要と認識されながらも順調に進んでいない現状があります。
「2024年度に向けた製造業のDXにおける投資予算や課題などの実態調査」の結果によると、DXを推進する課題は以下が挙げられます
DXのプランを立てて着手するための知識を有する指導者、技術者などの人材が不足しています。人材不足の要因として以下があります。
- 専門スキルを持った人材の不足
- 高度なデジタルスキルを有する技術者が不足しています。
- デジタル人材育成の遅れ
- 経営陣を含めたすべての人のデジタルスキルのレベルアップと、専門人材の育成が必要です。
- リスキリングの遅れ
- 既存の従業員をデジタル人材へと転換するリスキリングの取組が遅れています。
さらに、日本では労働人口が減少傾向であるため、人材不足は今後も続くと予測されています。
製造業DXを推進するにあたり、企業は自社の人材育成に力を入れる必要があるでしょう。
- 既存の従業員をデジタル人材へと転換するリスキリングの取組が遅れています。
資金の不足
資金が不足しており、DXへの投資が必要とわかっていても導入できないケースがあります。しかしDXを成功させて生産性が向上すれば業績にもプラスになるため、費用対効果を見極めながらスモールスタートで実績を積み重ねていく対応が求められます。
物の不足
新しいデジタル技術やシステムと古いレガシーシステムが互換性を持たないことが多く、統合が難しいという問題があります。しかし、レガシーシステムの置き換えやアップグレードには多大なコストと時間がかかり、業務に影響を与えるリスクも高いというジレンマが生じます。そのため、段階的な移行計画の策定や、外部専門家の活用などが必要です。
変革への抵抗感
熟練技術者の知識や技術を全体に共有する属人化から標準化への変革は、抵抗をともなうことがあります。また、現在の業務の流れで社員が担当している裁量がシステム改変により減ってしまうときや、大幅な組織改編でも摩擦が起きるでしょう。
DX推進にあたっては、企業が明確なビジョンを掲げ、それを従業員全員で共有することが大事です。
製造業DXの進め方とポイント
製造業DXの進め方と成果を上げるためのポイントを解説します。
製造業DXの手順
製造業DXを進める標準的な手順は、以下のとおりです。
STEP1 現状分析
自社の状況を確認し、現状への正しい理解を明確にして、社内で共有します。ひとことで言うと、現状のボトルネックは何か?を明確にします。各部門の業績、現場の設備やシステムの状況を調査するほか、従業員へのアンケートやヒアリングも有効です。
自社のDX必要度を客観的に知るために役立つツールとして、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が「製造分野DX度チェック」を提供しています。
STEP2 目標設定
現状を踏まえ、自社がDXで目指す目標を決め、わかりやすく言語化して社内に共有します。「1年以内に生産ラインの稼働率を15%向上させる」といったように、具体的な数値を用いましょう。
STEP3 DX推進の全体計画を策定
目標達成のために必要な改革項目を整理して、全体の計画を策定します。
STEP4 必要なリソースの確保
DX推進にあたり人材や資金が不足している場合、それをどのように確保するかを決めます。人材の採用、育成、DX支援会社への依頼などの選択肢があります。
STEP5 ロードマップを作成
DXの全体目標をふまえ、具体策を挙げ、優先順位をつけてスケジュールを決めます。たとえば以下のような取り組みがあります。
- 生産ラインへの管理システム、AIやロボットの導入
- 部門間のデータ共有・一元化
- SFA、MAなどのデジタルツールによる業務効率化
- 営業、マーケティング、人事など各部門の業務改革
- 人材育成プログラムの実施
いつまでにどの程度達成するかのKPIも合わせて設定します。
STEP6 計画の実行
計画を各現場で実行します。
STEP7 定期的に見直しながらDXを推進
実践してみた経過で順調にいかない部分、問題点が出てくるので、定期的に進捗を確認して、必要な改善を加えながら進めていきます。
製造業DXを成功させるポイント
製造業でDXを成功させるポイントとして、以下が挙げられます。
DXは大規模な企業改革ですが、成功する見通しが立てやすい施策から優先して「スモールスタート」で着手することが有効です。そこで早めに成功の実績を作り、社内での共感を得ることで進めやすくなるでしょう。マーケティングDXで集客や売上アップの実績を早く作ることもおすすめです。
経営陣がDXにコミットしつつ、個別のアイデアについては現場からのボトムアップの声を重視し、若手人材を抜擢して裁量を任せながらベテランがサポートすると効果的です。
通常業務だけでなくDXでも明確なKPIマネジメントが有効です。QCDをバランスよく改善できるよう、KPIを適切に設定し、達成度を見極めながら進めていきます。
製造業DXの企業事例、シャノンのお客様のBtoB製造業DXを紹介!
製造業DXを実践している企業の事例、シャノンのお客様でBtoBの老舗ものづくり企業のDX推進事例をご紹介します。
製造業DXの企業事例
製造業DXを推進している企業の事例です。
株式会社LIXIL
「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」をビジョンに掲げ、DXによる既存ビジネスの変革、新規ビジネスの開発を進めています。
「従業員の声をきく『LIXIL Voice』の実施」「デジタル部門のアジャイル化」「人材評価制度の改革」などを実践。「LIXIL Data Platform」によりビッグデータを集約・分析して戦略活用するほか、ノーコード開発ツールの導入により、従業員が開発して現在稼働中のアプリ数は2023年3月時点で1500個に達しています。新規事業としてはIoTを活用するスマート・ウォーター・コントローラー「GROHE Sense Guard」、パブリックトイレの清掃を効率化する「LIXIL Toilet Cloud」などを展開しています。
株式会社荏原製作所
グローバル市場で成長することを目標に、「企業風土の改革」「業務効率化」「組織やビジネスモデルの変革」の分野でDXを推進しています。
コンプレッサー・タービンの設計において、パラメトリック3D CADに独自技術を融合させて、顧客の要望に対する基本設計と詳細設計を自動化し、設計リードタイムの短縮と、3Dモデル・図面の均一化によるエラー発生ゼロを実現しました。また、ごみ識別AI搭載の「AIクレーン」、「配管点検ロボット」を開発し、安心安全で質の高いごみ処理サービスを提供しています。
キリンホールディングス株式会社
長期経営構想「KV2027」において、イノベーションのひとつとして「価値創造を加速するICT」を提示。グループ全体でデジタル技術を活用した業務プロセス変革を推進し、効率化と顧客価値創造に取り組んでいます。「DX道場」でデジタル人材育成にも注力しています。
注目の取組としては、AIを活用した「ビール醸造計画自動化システム」の構築による工場の計画業務4,000時間以上の削減、飲食店向けのクラフトビールプラットフォーム「TapMarche」による顧客サービス向上などがあります。
※上記事例は経済産業省が選定する「DX銘柄」より引用
シャノンのお客様から、製造業DXの成功事例を紹介
製造業DXは企業にとって不可欠です。なかには資金不足や人材不足などに直面する中小企業も少なくありませんが、少ない投資金額でかつ費用対効果の高い改革を少しずつ積み重ねていくことで成長を実現できます。
そのために、売上に直結するマーケティング部門からDXに着手するというのもひとつの選択肢です。
以下は、シャノンのMA導入によりDXの推進を図ったたお客様の事例です。
池田金属工業株式会社
ねじの卸売業として大阪で創業した池田金属工業は、「ねじで世界をよりよく変える。」というミッションのもと、ねじの開発・製造・販売のほか、顧客企業へのソリューション提案も行っています。
以前は展示会への出展やセミナーを開催する事で新しいお客様と接点を持っていましたが、
コロナ禍で展示会や対面セミナーが自粛となったタイミングで、DX推進の一環として、過去のリード情報を管理・活用できるMAの導入を検討。過去の展示会やセミナーで取得したリード情報を活かし、顧客との接点を統合管理する事でより良い提案を行うための基盤構築としてマーケティングオートメーションの導入を決定しました。
これにより顧客情報の一元管理やリード情報の活用を進め、DX推進と営業改革を実現。施策ではブログによる情報発信、メルマガ配信などを積極的に行った結果、相談を寄せる企業が増えていきました。そこから知ることができた顧客ニーズに応えるためスタートさせた新サービス「ねじの技術診断」も好調です。
事例についてくわしくは以下で紹介しています。
浪速の老舗ねじ商社が挑む”ゆるまない”DX推進
シャノン×kintoneで加速する老舗企業のDX
株式会社ベンカン
配管メーカーとして75年の歴史がある株式会社ベンカンは、配管を製造販売するBtoB企業で、「メカニカルジョイント」の技術で知られています。2017年、マーケティングの必要性を感じてシャノンのMAを導入したものの、運用しきれずに1年で解約。しかし、製品ニーズがありながらも営業部門の人手不足で十分にリーチできていないという課題を感じていました。
その後、コロナ禍で対面営業が制約された2020年、MAの再導入を決定しました。2名がマーケティング担当者となり、Webサイト、メルマガ、資料ダウンロードなどの施策を強化。
課題であったリーチについては、スコアリングの設計と運営を行うことで、現在はマーケティングチームから営業チームへの見込み客引き渡しを順調に進められるようになりました。
事例についてくわしくは以下で紹介しています。
必要だったのはマーケティングの社内浸透。老舗メーカー、ベンカンが2度目のシャノン導入
まとめ
本稿のポイントは以下です。
1. 日本では製造業DXが遅れていて、国際競争力向上のためにもDX推進が重要です。
2. 製造業DXで実現できることは、以下の9項目です。
1)属人化していた技術の可視化と共有
2)ひとりあたり生産性向上と人材の最適化
3)集客力の向上
4)製品の価格競争力が向上
5)顧客満足度の向上
6)ダイナミックケイパビリティの確保
7)コアコンピタンスの強化と新規事業への展開
8)GXに向けた事業最適化
9)グローバルな水平分業へのアクセス
3. 製造業DX推進における課題は、人材の不足、資金の不足、変革への抵抗感です。
4. 製造業DXの手順は以下の通りです。
STEP1 現状分析
STEP2 目標設定
STEP3 DX推進の全体計画を策定
STEP4 必要なリソースの確保
STEP5 ロードマップを作成
STEP6 計画の実行
STEP7 定期的に見直しながらDXを推進
最後に、シャノンのマーケティングオートメーションでは、データの一元管理による効率的なリード獲得とナーチャリングが可能です。
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